補聴支援システムは、欧米では「Assistive Listening Systems(ALS)」と呼ばれ、補聴器や人工内耳による聞こえを補完・改善するための音声支援技術を指します。欧米では広く一般に知られており、空港や駅、劇場、会議施設、教育機関など、さまざまな場所で導入が進んでいます。また、法律やガイドラインに基づき設置基準が整備されており、一定規模の施設では導入が求められるなど、実質的に導入が前提となる制度が構築されています。こうした制度的な枠組みがあることで、補聴支援システムの普及が支えられています。
本ページでは、補聴器や人工内耳に無線技術を用いて音声を直接届ける「補聴支援システム」の歴史をご紹介します。騒がしい環境でも話し声を明瞭に伝えるために、さまざまな技術が開発されてきました。各技術の登場背景や仕組み、日本での導入時期に加え、受信範囲や利用方法についても解説します。
FM方式
メリット:広い範囲で安定して音声を届けることができる
デメリット:他の電波の影響を受けやすく、安定した利用には調整が必要
FM方式は、1960年代にアメリカで教育分野を中心に広く使われ始めた技術です。音声をFM電波に変換して送信し、受信機で受け取る仕組みです。比較的安定した通信が可能で、屋内外で数十メートルから100メートル程度の範囲で利用できます。日本では1980年代頃から特別支援教育の現場を中心に導入が進みました。受信には専用の受信機や補聴器との接続機器が必要で、周波数管理や混信への配慮も求められます。
赤外線方式
メリット:音漏れがほとんどなく、プライバシー性が高い
デメリット:遮蔽物に弱く、見通し範囲でしか受信できない
赤外線方式は、1970年代頃から欧米を中心に普及した補聴支援技術です。音声信号を赤外線に変換し、送信機から受信機へ光として届ける仕組みです。光は壁を通り抜けないため、外部への音漏れが少なく、プライバシー性が高い点が特長です。日本では1980年代頃から劇場や会議室などで導入が進みました。受信範囲は見通し内で数十メートル程度で、遮蔽物に弱いという制約があります。利用には専用の受信機が必要です。
ヒアリングループ
メリット:補聴器のTコイルで直接受信でき、専用受信機が不要
デメリット:利用できる範囲が限られ、場所や動きによって聞こえ方に差が出る
ヒアリングループは、1930年代に原理が考案され、その後イギリスを中心に発展してきた技術です。音声信号を電流に変換し、ループ状のケーブルに流すことで磁界を発生させ、補聴器や人工内耳のTコイルで直接受信します。日本では1990年代頃から公共施設や窓口などで導入が進みました。受信範囲はループが設置されたエリア内に限定されますが、その範囲内では安定した音声伝達が可能です。Tコイル対応機器であれば専用受信機は不要です。
ロジャー(Roger)
メリット:話している人の声を近くで拾い、周囲の雑音を抑えて届けることができる
デメリット:専用機器が必要で、導入コストが比較的高い
ロジャーは、スイスの補聴器メーカーであるPhonak社が2013年に発表したデジタル無線方式の補聴援助システムです。音声をデジタル信号として送信することで、雑音環境でも明瞭な聞き取りを実現します。受信範囲は機種により異なりますが、屋内外でおよそ15〜数十メートル程度の範囲で利用でき、複数のマイクや受信機との連携も可能です。日本では2010年代半ば以降、教育や医療分野を中心に普及が進んでいます。利用には専用の受信機や対応する補聴器などが必要です。
Wi-Fiリスニングシステム
メリット:スマートフォンで利用でき、多人数に同時配信が可能
デメリット:アクセスポイントの性能に依存し、端末やアプリの状況によっては接続できない場合がある
Wi-Fiを使った音声配信システムは、2015年頃から普及が進み、公共空間などにおいてスマートフォンで音声を聞く仕組みが注目されました。専用受信機が不要で、利用者自身の端末で音声を聞くことができる点が特長です。2025年には、聴覚障害者の補聴支援に特化したBettearのB-Showが日本で販売開始され、オーラキャストとのハイブリッド配信への展開も期待されています。